ワイルドウエストと自然保護の町、
ケーブクリーク(6)

ケーブクリークは、東部や中西部の人々がアリゾナの自然を楽しもうと、続々と押し寄せ、観光客でにぎわい始めた。サワロの巨大なサボテンが林立し、アリゾナならではの風景に、ニューヨークなどの都会人は魅了されてしまった。
こうして、砂漠とカウボーイのケーブクリークには、先月紹介したランチョ・マニアーナなど、宿泊施設を備え、乗馬やハイキング、屋外のキャンピングなどのサービスを提供するビジネスが登場し始めた。
今回は、そのひとつであるスパークロス・ランチを訪れてみた。

   
刑務所帰りのカウボーイ達

1925年の話。ケーブクリークに住むカウボーイのエドワード・ジョイスは、自分の妻が浮気をしていることに気がついた。頭にきたジョイスは、浮気相手の男に問いつめた。その男もカウボーイで、エドワードの前でジョイスの妻との関係を認めた。よけい頭にきたジョイスは、この男を殺害してしまった。当時よくあるカウボーイ同士の殺し合いだったのかもしれない。
殺人罪で逮捕されたジョイスは、刑務所に送られることになった。今であれは、第一級もしくは第二級殺人で死刑か終身刑の判決を受けるような犯罪なのだが、時はワイルドウエストの1920年代。彼は、しばらく刑務所生活を送った後、難なく出所してきたのだ。ジョイスは、同じ刑務所で知り合ったフィリップ・ルイスという男と親しくなっていた。フィリップ・ルイスがなぜ刑務所に送られたのか資料がなくて、わからないが、とにかく、彼もジョイスと同じような時期に刑務所から出て自由の身となったようだ。
さて、娑婆世界に出て来たこの二人は、ビジター相手の宿泊業を一緒に始めようということになった。そこで、それを聞いたフィリップ・ルイスの弟、アルフレッド・ルイスが、この二人にアドバイスを与えた。鉱山技師だったアルフレッドは、長い間、ケーブクリークに関心があり、新聞や鉱山の雑誌などに、その記事を投稿していた。そんな彼は、刑務所から釈放されてきた二人に、ケーブクリークこそビジネスに最適な場所であると強く勧めたのだ。こうしてこの二人は、1928年、ケーブクリークの北側にある山の麓に、スパークロス・ランチ(Spur Cross Ranch)という名のゲスト・ランチを始めることにしたのだ。

 

 

スパークロス(Spur Cross)の出発

スパーとは、拍車の意味。つまり馬に乗る人が履く靴のかかとにつけるU型の金具のことを意味し、これで馬の腹をけって馬を走らせたりする。ジョイスとルイスは、この場所をスパークロス・ランチと命名し、ケーブクリークの南からこのランチに続く道もスパークロス・ロードとした。彼らの商標は、拍車のU時型とその下に十字架(クロス)を入れている。
さて、ゲストの宿泊施設を建設しようとしていた二人に、思いもよらないチャンスが舞い込んで来た。ちょうどスパークロスの前を流れる小川の向こう岸に、オーナーが亡くなって誰も使っていない建物があることがわかった。このオーナーが残していった木材やパイプなど一切含めて、この建物を譲り受けることが可能となったのだ。こうして、キッチン付きのコテージが誕生し、いよいよ東部からビジターを呼び寄せることになった。

   
宣伝活動

ジョイスは、生まれながらにして、言葉巧みで宣伝活動に秀でていた。この新たなランチを東部に広く知らしめるため、東部の街町を駆け巡った。ラジオ局のインタビューにも応じた。いろんな団体に顔を出し、スピーチして歩いた。東部からゲストが来ると、フェニックスの駅まで迎えにいき、そこから車でスパークロスまで送迎した。ひとたび目的地に着くや、そこは、電気も電話もない、荒れ地のアリゾナだった。そこで、宿泊客達は、乗馬を楽しみ、カウボーイの生活を満喫した。

 

 

パートナーシップの終焉

しばらく商売も順調に進んでいたが、ジョイスは、徐々にフェニックスでの滞在が長くなり、スパークロスの客相手は、いきおい、ルイス一人の仕事になっていった。そんな状況にあきあきしたルイスは、ジョイスに自分の株を売却してしまう。こうして、スパークロスの物件は、結局、銀行の差し押さえを招いてしまったのだ。ついに、1930年、スパークロスは、売却処分となった。

 

 

その後のスパークロス

その後、オーナーが転々と代わり、最終的にゲスト用の施設もすべてなくなって、スパークロスは、牧場として使われてきた。さて、人口急増のアリゾナは、開発業者にとって格好のビジネスの地となってきた。スパークロスの広大な敷地は、大型の住宅地やショッピングモール、リゾートホテルなど、ディベロッパーにとっては、投資物件として魅力的な敷地だった。ところが、これを知ったケーブクリーク市民や環境保護団体は、スパークロスの自然保護に立ち上がった。

 
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