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人口統計が語る未来のアメリカの顔

移民の国、アメリカ合州国。選挙になると、必ず議論の的となるのが、この移民政策である。とりわけ、2001年の9・11同時多発テロ事件以来、米国の移民規制が実に厳しくなってきた。
ところが、その規制と関係なく、米国内で静かに大きな変化が起こりつつある。それは、米国内で生活をしている米国市民および移民の人種別人口の変動である。つまり、アメリカの顔が変わっていくのだ。今月は、この変化を扱ってみよう。

 

本年5月3日。フェニックスのビルトモア・ホテルのボールルームに200名弱のアジア系アメリカ人が集った。この会合は、アジアン商工会議所主催の朝食会だった。この会合の登壇者の一人、オリバス博士が、興味深い研究発表を行った。オリバス博士は、アリゾナ州立大学の名誉教授。
参加者の多くがアジア系であり、アジアン商工会議所の会合であったため、オリバス博士は、米国のアジア系アメリカ人とアジア系移民の人口推移をグラフなどを使って説明した。(下写真)

 

米国内で増え続けるアジア系人口

全米で10年毎に世論調査が行われてきた。そして2010年の世論調査によると、米国内で人種別による人口増加率が最も高いのは、アジア系であることがわかった。
下のグラフが示すように、1990年から2014年の24年の間に、ヒスパニック系とアジア系が著しく増加し、白人の人口は、ほぼ停滞状態にある。

移民による人口増加

人口増加を支えている要因がいくつかある。まず、その一つである移民の増加を見てみよう。2014年の米国移民数は、4,220万人。これは、全米総人口の13.2%に当たる。過去にさかのぼって、1960年を見ると、米国在住移民数は、970万人で、全米総人口のたった5.4%でしかなかった。つまり、アメリカは、年々、外国からの移民を受け入れ、今では、1割以上が移民という統計が出ている。また、州によってもこの割合がまちまちだが、一番移民人口率が多いのがカリフォルニア州で27%。次がニューヨーク州の22.6%。アリゾナ州は、13.7%で全米平均よりやや上にある。

 
 
移民層の変化

1960年の調査では、外国で生まれた米国移民のほとんどがヨーロッパ系で占められている。当時は、冷戦で世界が共産圏と自由圏に分かれ、ソ連の強い影響下にあった共産国からアメリカに移民してくる人たちが多かったのも一つの要因と言える。ところが、1980年代からヨーロッパ系の移民が減少し始め、それに変わってアジア系と中南米からのヒスパニック系が増加し始める。とりわけアジア系は、ベトナム戦争の終結による共産政権の台頭で、ベトナム、ラオス、カンボジアから多くの難民がアメリカに移住してきた。近年は、アジア諸国が経済力を強めた影響か、学生、エンジニア、医師、事業家など全く異なった移民層がアメリカに出現しつつある。

 
 

マイノリティーの間で伸びる出生率

アメリカのいわゆる多数派(マジョリティー)は、白人だが、それ以外の人種、つまり少数派(マイノリティー)の出生率が伸びている。統計では、1993年にマイノリティーの新生児を持つ母親は、全米の18%だったが、2014年には、47%となっている。
とりわけ、ヒスパニック系の出生率は、他人種より高い傾向にある。2010年の調査によると、一人の母親が出産する子供の数は、全米平均が2.0。ヒスパニック系が2.4。白人とアジア系が1.8という数値が出ている。また、ヒスパニック系でも米国外からの移民の女性は、米国内で生まれた女性よりも、出産率が高い傾向にある。

注:「モン族」とは、東南アジアに住む少数民族のひとつ。ベトナム戦争と時に米国軍がモン族の機動力に目をつけ、多くのモン族を雇った。そのベトナムからアメリカが撤退し、アメリカに加担したモン族は共産軍から危険視され、多くのモン族がアメリカに逃れてきた。いまでもその家族が米国に在住している。
アメリカで増える異人種間の結婚

ピュー研究所の調査によると、2010年の時点で、白人の9%は、他人種と結婚している。これは、10年前の1980年の調査結果から3倍の増加という。さらに、2009年の調べでは、29%の白人が、白人以外の人種が自分の家族の中にいると答えている。この傾向は、今後さらに進み、米国内で、他人種間の結婚が多くなり、将来、これまでの単純な人種別統計は不可能に近くなる。
2010年の調査では、全米の新婚カップルの15%がこうした異人種間結婚という数値が出た。その中で、ヒスパニック系(26%)とアジア系(28%)が他人種と結婚する率が高く、白人は9%で黒人は17%である。

 
白人の人口変化

近年顕著になっているアメリカの白人の人口変化は、低い出生率に起因している。しかも、白人の死亡率が出生率より高くなってきているので、人口は確実に減少傾向を示していくことになる。2010年国勢調査によると、新生児から14歳の子供の人口は、白人が全米 65.5%だ。この率が継続的に減少傾向にある。最近の調査によると、新生児から5歳の白人の子供たちは、全米の同年の子供の総数の半分以下になった。したがって、彼らが30代になる2043年には、白人の数は、全米の半分以下となると予測されている。

 
アジア系移民がヒスパニック系移民を超える日

米国のお隣メキシコからの移民は、長い間、増加の傾向を辿ってきた。ところが、2009年から2014年の5年間は、メキシコ移民数がマイナスになり続けている。つまり、メキシコからアメリカに来る人より、アメリカからメキシコに戻る人の数が多くなっていることがわかった。これは、1990年以降顕著になっていた非合法滞在者に対する厳しい制裁がアメリカで行われ、その上、2007年以後の経済不況がその傾向に追い打ちをかけてきた。
一方、アジア系移民は、引き続き増加の一歩を辿り、今後もその傾向は強くなると予想されている。

   
アリゾナの人口推移

では、アリゾナ州はどんな人口推移を見せているだろうか。2000年の州内総人口は、約510万人だった。10年後の2010年には、約640万人となり、増加率は24.6%を示した。そのうち、73%は白人。29%がヒスパニック。4.1%が黒人。4.8%がネイティブ・アメリカン。そしてアジア系は3.6%。
白人の人口は、2000年に89.29%だったので、かなり減少していることがわかる。アジア系は2000年に2.36%であり、アリゾナでも、その増加は著しい。

 
   
新世代の台頭

過去、アメリカ社会に大きな影響を与えてきた世代をベビーブーマーと呼ぶ。この世代は、1946年から1964年の間に生まれ、米国の経済、政治、社会変動に多大な貢献をなしてきた人たちだ。
この世代がいよいよ老齢化し、アメリカには、新たな世代の台頭が見られる。それは、1980年代と1990年代に生まれた若者たちである。この世代は、アメリカの歴史で最も人種的にも民族的にも多様化した人たちで、彼らの43%は、非白人。その上、この新世代は、どの世代よりも高い教育を受けている。反面、大学授業料の膨大な借金を抱えているのもこの世代で、金銭的な理由で、親と同居している若者が多数いる。しかし、この新世代がアメリカの新たな社会変動に多大な貢献をなしていくと見られる。

   
変化するアメリカの顔

ネックスト・アメリカ(The Next America)という新刊書が発行された。今、全米で注目されている本である。「次のアメリカ」、つまり将来のアメリカ人とアメリカ社会を予測した本だ。著者は、ピュー研究所の上級副社長であるポール・テイラー氏。当著では、アメリカの新たな顔が出現することを予測している。これまでのアメリカのベービーブーマーたちは、一般に白人主流で政治的には保守支持層であった。ところが、新世代は、非白人が主流となり、政治的には、はるかにリベラルア志向である。しかし、こうした新世代の多くは、特定の政党支持に関心が薄く、一般に選挙での投票率は低い。また、宗教的にも、特定の宗教を選ばない傾向が強く、社会的には、主にフェイスブックなどを通して友人とのコミュニケーションを行い、いわゆるソーシャルメディアの中心となる世代層である。また、彼らの結婚観もこれまでよりはるかにオープンだ。新世代の9割が多人種との結婚に対し好意的であり、また、半数以上が同性愛の結婚を支持している。
今世紀の中頃には、幼稚園に通う子供たちの半数が非白人となり、それが彼らにとって当たり前の環境となる。こうした子供たちが成長していく社会には、今までの全く違う現実が現れてくることが予想される。
今年は、アメリカの大統領選挙の年。毎日加熱した選挙活動がニュースで報道されているが、アメリカの新世代の投票は、大変興味深い。