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セニョール・スシ
変化する寿司文化

変化を遂げる食文化。インドのカレーは、日本に紹介されて日本化し、カレーライスとして定着した。アメリカで定着した中華料理も中国本土では決してお目にかからないものが多い。つまり、アメリカ化した中華料理だ。その上、フォーチュンクッキーなどアメリカの中華料理店では当然の品物も、中国人には無縁のものだ。イタリア人がアメリカのピザを見て、首をかしげることもある。日本のラーメンなどは、「中華そば」と呼ばれているが、中国人は、これを日本食だと認識している。
つまり、その国に住む人々に受け入れられていけば、オリジナルの食べ物は、どんどんと変化を遂げるといういう歴史がある。さて、日本の「寿司」も、過去10年以上、アメリカ化がかなり進み、「カリフォルニア・ロール」など、アメリカ産の寿司が定着している。
その上、「寿司」は、アメリカで健康食として大きな人気を生んできた。
そこに目をつけたメキシコ人がアリゾナ州フェニックス市で開店したメキシコ風寿司レストラン。これが、「セニョール・スシ」だ。今月は、この一風変わった寿司レストランを訪ね、確実に変わりつつある日本食文化を覗いてみることにする。

 
 

 

セニョール(Senor)

わざわざスペイン語を使ってレストランの名前をつけた。「セニョール」とは、英語で「ミスター」の意。店のオーナーのラロ・ゴンザレスさん自身がそのミスターなのだろう。
ラロさんは、メキシコ生まれ。もともと料理人でアメリカ各地でその腕を磨いた。寿司作りの経験もなく、日本にも行ったことがない彼が、なぜ、この店を開けることにしたのだろうか。
それは、彼が「寿司であれば、必ず儲かる」と確信したからだった。彼は、メキシコ各地にある和食レストランに行ったが、同じようなものは出したくなかった。当時アリゾナでピザのレストランをしていた彼は、よく研究をし、何が人気を呼び、そして誰が食べるかを調べた。
彼は言う。「アリゾナにいるメキシコ系の人たちは、日本食レストランに行っても、どのように寿司を食べたらいいか知らない人が多いんです。また、わからないんで、実際には食べに行かないです。そこで、メキシコ系の人たちが気兼ねなく、そして楽しく寿司を食べてもらえるように考えたんです。」

オーナーのラロさん
 

 

店内を飛び交うスペイン語

店は何となく東洋風のデコレーションを使って、日本食であることを印象つける。しかし、店内にはスペイン語が飛び交っている。平日は平均250名、週末は500から550名の客が来るという。週末は、予約なしだと1時間くらい待つ人も多いとのこと。
この店の中は200席あり、ステージが用意されている。ここでは、週末にライブのバンド演奏がある。メキシコのマリアチからロックンロールまで、音楽が店内を駆け巡る。そして、客がステージ前で踊り始める。メキシコ人特有の明るいパーティー好きの人たちが、食べ、飲み、そして踊るのだ。
店の営業は、毎日。一週間ぶっ続けで休みなし。ランチとディナーの間の閉店時間もない。
週末は、店内が狭すぎるので、近々、壁を取り払って、隣のスペースも入れる予定だという。また、第2号店も近い将来、開店する運びとなっている。

 
 
ユニークなメニュー

ここの寿司の大半がロール。カミカゼ・ロール、シュリンプキラー・ロール、ロックンロール、レモンロールなど、、、。ハラピニョなどの辛いチリもふんだんに使う。メキシコ風のロールも多く、メキシカン・ロールは、超辛のソースが入っている。また、人気のロールの一つが、「ヤマサキ」。日本語のヤマサキかと思えば、これがスペイン語。「ヤマス」と「アキ」を一緒にしたものだ。「ヤマス(llamas)」とはスペイン語で炎の意。「アキ(aqui)」は、「ここ」という意味。つまり、「ここにある炎」と言えようか。とにかく、日本語の発音にそっくりなので、そのまま人気商品として定着した。「ヤマサキ」は、皿の上の食べ物が炎を出して、キッチンから運ばれてくる。

成功のカギ

こうして、メキシコ風に変化した「寿司」が成功したカギは何だろうか。それは、なんと言っても、客のニーズをつかんだオーナーの目であろう。ラロさんは言う。「うちが儲かっているから、他の人もメキシコ風寿司レストランを始めています。でもね、絶対にうちの真似はできないよ」と。その裏には、メキシコ系の人たちが何を食べるのかを常に研究する努力があるのだろう。
ともあれ、メキシコ風寿司がアメリカ社会に定着する日も近いかも知れない。