ツーソンで生まれた日本語補習校

26年前に出発した日本人補習校、アリゾナ学園は、すっかり地元に定着し、日本からの駐在員家族の子供たちや地元の日本人、ハーフの子供たちが毎週土曜日に日本語で国語や算数を学んでいる。
実は、アリゾナ第二の都市、ツーソンでもこうした補習校が誕生した。今年で3年目となるツーソン日本人補習校は、フェニックスと全く違う環境の中で、子供たちに日本語を学ぶ貴重な機会を提供している。今月は、この学校を訪れ、創立に関わった二人の女性、ひとみ・マックナイトさんとみなみ・エスピノサさんにお話を伺った。

 

 

 

学校の発案者

ツーソンに住む日本人の子供に日本語を教える。もっともシンプルな発想だが、その実現には、予想以上の大きなハードルが横たわっていた。ツーソン出身のアメリカ人と結婚したひとみさんは、4年半前にご主人のホームタウンであるツーソンに引っ越してきた。二人の小さなお子さんと一緒に一家で新しい生活が始まった。
ひとみさんは、当時、教会の一室で子供に遊びながら日本語を教えているグループを見つけた。このグループに二人の子供を連れていく中で、他のお母さん達と知り合いになり、日本語補習校みたいな学校があれば、といった話が自然に出始めた。日本で教員だったひとみさんは、その必要性をひしひしと感じていた。
ある日、たまたま、みなみさんと会う機会があった。みなみさんもツーソンに引っ越してきて8年目。同じ年頃の子供がいて、やはり「補習校があったらいい」と思っていた。そこで意気投合した二人は、ついに行動に出ることにした。2014年の話だ。日系企業が何社もあり、駐在員家族が多いフェニックスとは全く異なった環境のツーソンだ。企業のサポートは、まず、ありえない。ともかく二人で最初の一歩を踏み出した。

 
発案者、創立者、運営者のみなみさん(左)とひとみさん(右)
学校設立に向かって

 

まず、ツーソンに住む日本人の間で、どれだけのニーズがあるか調べてみることにした。そこで、アンケート用紙を配り、教会のプレイグループなどに子供を連れてくる親を対象に、補習校への興味の有無を尋ねた。その結果、子供を補習校に入れたいと希望する数が60名弱もあることが確認できた。しかし、現実に学校を開いて何人の子供が入学してくるかを考え、一応、30という可能性を出してみた。
さて次は、学校の場所探しだ。教会の一室を借りるには、十分なスペースがない。どこか他の場所を賃貸して使う以外にない。ツーソンの町を色々と当たってみた。すると、インターナショナル・スクール・オブ・ツーソンという学校が見つかった。この学校は、私立で、地元の子供達に様々な外国語を教える国際人を育てる目的を持った教育施設だった。中国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語を教えるこの学校を、週末にも、ドイツ語学校、ヒンズー語学校が校舎を借りて教室を開いている。
この学校に早速、日本語補習校の話を持って行った。すると、学校側はこの申し入れを快諾してくれ、思いがけない理想的な施設が見つかったのだ。

インターナショナル・スクール・オブ・ツーソン
ゼロからの出発

ひとみさんとみなみさんは、学校設立の経験もなければ、そうした知識も皆無の、普通の主婦だった。その全く素人の二人が始めた大きなプロジェクトは、企業や団体の支援が全然ない状況で、文字通りゼロからの出発をすることになる。
子供を預かり教室で教えるには、保険がなければならないことがわかった。いざ何かあった時に保険をかけておかないと大変なことになる。その保険をかけるには、個人では保険会社は扱ってくれないこともわかった。そのために、組織を作り上げないといけない。そこでLLCを作った。まだ、非営利団体を作るまで至らないので、とりあえず、LLCで出発させた。LLCとは、有限責任会社のことで、州法に基づいて設立される会社形態だ。日本人の二人が英語と格闘しながら、合法的な組織創立にこぎつけた。
日本語で国語や算数を教えるのに、どうしても教科書が必要となる。そこで、学校を立ち上げる前にロサンゼルスの日本国領事館にかけあった。最初は、「まだできてない学校への援助はできない」と言われたが、一生懸命説明をしていく中で、古い教科書だったら送料を支払えば提供してくれるということなった。開校後、ボランティアの一人が領事館に交渉に行き、日本国籍の生徒で日本に帰国子女として戻る子供の数に限り、送料込みの新しい教科書を無償で送ってくれるようになった。アリゾナ学園からも古い教科書などを無料で譲ってもらった。

いよいよスタート
準備を始めて約1年後、2015年の8月にツーソン日本語補習校がスタートした。23名の生徒と4名の教師での出発だった。今年は、28名の生徒が来ている。
運動会、新年書き初め、学芸会なども開催し、活動の充実を目指している。現在は、LLCの組織形態なので、将来は免税という利点がある非営利団体を目指す。
運営資金の調達も大きな課題だ。地元のレストランや諸団体などに声をかけ、協賛金の募金運動も始めた。また、地元のイベントに出て、募金を募ったり、ボランティアの人たちが手作りで提供した箸などを日本食レストランなどで売ったりしている。
ひとみさんとみなみさんは、正直言って、いつまでやっていけるのか、まだ学校の将来が見えてきていない。一年一年が綱渡りのような学校運営だ。しかし、二人の主婦がゼロから始めた日本語補習校は、必死の思いが通じて、形となって実現した。ここからどんな人材が将来出てくるか。これこそが教育機関運営の醍醐味かも知れない。アリゾナのツーソンで生まれた小さな学校で、その大きな意義が明確になるのは、子供達が育っていった何年も先のことになろう。

ボランティアの手作り。見事な箸。学校の運営資金の一助となる。

 

学校のホームページ:http://tucsonnihongohosyu.wixsite.com/tucsonnihongohosyuko
問い合わせ: メールにて: tucson.nihongo.hosyuko@gmail.com
協賛は一口20ドル。
郵送先: Tucson Japanese Language School LLC
1803 East Seneca Street, Tucson, AZ 85719-3748
 

ボランティアで図書担当を担う中島宏さん